専門家からのご意見、アドバイス
不祥事が起きる企業に共通している問題点は 2 つあります。一つは経営トップの姿勢。これは外部からも内部からも変えにくい。そしてもう一つは情報が正しく生み出され、伝達される仕組みが不十分なことです。
本来、組織の目標の達成を阻害する不利益なことがあれば一刻も早く摘み取らなければなりません。しかし、マイナス情報は伝わりにくい。現場が封印してしまって、結局、経営トップに伝わらないまま、不祥事という形で公になってしまいます。
トップは企業の頭脳であり、従業員は手足です。頭脳が手足の痛みや異常に気付くためには、神経が正常でなければなりません。それが内部統制という仕組みです。頭が手足の変化を知るための内部統制は、本当は頭である経営者を守る仕組みなのです。
今では上場企業の多くが不正監視などの内部統制の仕組みを持っています。ただ、多くの場合、内部通報の窓口の運営をしているのは同じ組織の人たちで、通報した人を異分子とみなしたり、裏切り者扱いしたりしがちです。決して通報者の立場を守ってはくれません。
だから外部に通報することになる。内部告発です。しかし、告発した際に「よくやった」と言われたとしても、結局、長い目で見て不幸なことになったりすることも多い。企業が通報者の勇気を称えようとしていないことや、なぜ外部に発信するのかを理解できていないことが原因です。
内部統制を構築するための基本的要素は 6 つあります。統制に対する意識に影響を与える「統制環境」、組織目標の達成の阻害要因を評価分析する「リスクの評価と対応」、経営者の指示を実行する「統制活動」、必要な情報を正しく相手に伝える「情報と伝達」、内部統制の有効性を評価する「モニタリング」、そして今日の業務を支える「IT への対応」です。
中でも大事になるのが「統制環境」と「情報と伝達」です。「統制環境」は組織の気風を決定し、組織内すべての人の統制に対する意識に影響を与え、他の基本的要素にも大きな影響を及ぼします。また「情報と伝達」が弱ければ、必要な情報を識別して組織内外および関係者に正しく伝えることができません。
どの企業もリスクをゼロにすることはできません。一番重要なのは悪い情報が出てきたときに、経営トップがどう対応するかです。臭いものに蓋をするのではなく、事態を正確に把握し、原因を究明することです。悪い情報は教訓としてプラスの方向に活かしていかなければ意味はありません。
しかし、残念なことに内部統制の形を整えても魂が入っていないケースが多い。仕組みを作っても、魂を入れて運用しなければ成果にはつながりません。内部統制は漢方薬のようなもの。即効性はありません。時間をかけて企業を筋肉質に変え、持続可能な経営を可能にするものなのです。
八田進二
青山学院大学
大学院会計プロフェッション研究科 教授
博士(プロフェッショナル会計学)
公認不正検査士(CFE)
略歴
1973年 | 慶應義塾大学 経済学部 卒業 |
1976年 | 早稲田大学 大学院商学研究科 修士課程 修了 |
1982年 | 慶應義塾大学 大学院商学研究科 博士課程 単位取得満期退学 |
現在 | 金融庁 企業会計審議会 委員、金融庁 会計監査の在り方に関する懇談会 メンバー、日本公認会計士協会 監査問題協議会 委員、日本ディスクロージャー研究学会 理事 等を兼務。
他に、日本監査研究学会 会長、日本内部統制研究学会 会長、会計大学協会 理事長、会計教育研修機構 理事、日本経営分析学会 理事 等を歴任。 |